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はじめに
この記事では、物理モデリングソフト「Modellus」をご紹介します。Modellusは,数式を入力するだけで物理現象のモデルを作ることができるシミュレーション・ソフトウェアです。これにより,プログラミングの知識がなくても,力学現象などの数学的モデルを書き,物理現象のシミュレーションを行うことができます。また,与えられたシミュレーションの元となるモデルの数学的構造を一目で理解したり,必要に応じて書き換えたりすることもできます(笠, 2015)。
このソフトの利点は、物理変数を自由に操作し、物体の振る舞いの変化を観察できることにあると考えます。本ブログでは、このModellusの利点を生かした探究活動案を紹介するつもりです。しかし、Modellusは現状、開発がストップしており、入手も困難になっております。詳しく解説しているサイトや動画も少なく、特に日本語での解説は極めて古いものがほとんどです。
そこでまずは本記事にて、Modellusの最も最新のVer.である「Modellus X 0.5.5」の紹介(歴史と開発背景)、そして導入方法と基本的な使い方をまとめ、Modellusを先生方が活用できるようにしたいと思います。
Modellusの概要
歴史
まず、Modellusというソフトウェアがいかにして生まれたのか、その経緯を紹介します。
Modellsは、英国で開発された、大学進学を目指す教育課程(Aコースと呼ばれます)で履修された教育コース「アドバンシング物理」のために開発されたソフトウェアです。1990年代に物理教育改革のための委員会を設置して議論を重ねてきた成果として、「アドバンシング物理」は作られました。日本と同じく物理離れが深刻化している英国において、その抜本的な解決をめざして開発された背景を持ちます。
「アドバンシング物理」第1版のCD-ROMにはModellus.2.5 が、07 年改訂版にはver.3.0が収録されていました。その後、Ver.4.0からJava版に変わり、さらに最新版となる「Modellus X」がリリースされました。現在の管理者は,Pedro Duque Vieira氏で,当初の開発者である Vitor Duarte Teodoro氏 は、Modellus Xに直接は関わっていないようです(笠 2015)。
現在の最新のVer.は、「Modellus X 0.5.05」です。こちら、不完全ながら日本語化もされています。しかし不具合が色々残っている上、Modellusの開発はストップしており、Modellusもホームページも消滅しています。しかし、現在の管理者であるPedro Duque Vieira氏によってソフトウェアは公開され続けており、今でも使用が可能となっています。
「アドバンシング物理」におけるModellus
英国の教育コース「アドバンシング物理」において、はどのように用いられていたのでしょうか。
先ほどから引用させていただいている笠(2015)によりますと、Modellusは「モデリング」、すなわち物理現象をモデルに変換して解釈することを学ぶために用いられました。modellusが登場するのは、運動学、ニュートン力学のモデリングを扱う部分で、実際の物理実験とModellus上でのシミュレーション実験を併用し、物理と数学の関係を示すことに使われていたようです。ここでは、現実世界の経験が重視されており、Modellus等でモデル化し、予測した現象を実際に実験で検証するなどして、モデルの限界について考えさせていたようです。
まとめますと、本来のModellusの使用目的とは、
- 物理現象をモデルに変換して解釈することを学ぶ
- 運動学、ニュートン力学のモデリングを扱う
- 実際の物理実験とModellus上でのシミュレーション実験から物理と数学の関係を示す
ということであったようです。
実際に考えられるModellusの運用
ここからは私が実際にModellusを用い、どのように使えうるのかを述べてみます。
Modellusは本来、前節で示したように、現実世界をモデル化し、モデリングの意義と限界を学ぶために用いられていました。そのため、生徒が実際に数式を書き、モデリングを行うことを前提に作られています。しかし、本来が大学進学特化のコースで使われていたことから、日本の物理を学ぶ多くの生徒にとっては、自分で式を打ち込みモデリングすることはハードルが高いです。
また、後述のようにかなりマシンパワーを必要とすることから、一人一台端末が普及している現在でも、生徒のPCにインストールして使う運用は、生徒パソコンのスペックからすると厳しいと考えます。
しかし、Modellusを純粋に物理シミュレーションソフトと考えたとき、複雑なプログラミング知識不要に、物理の式を打ち込むことで様々な物理シミュレーションを作成できるのは魅力的です。また、運動の様子をリアルタイムでグラフ化したり、力の大きさの変化をベクトル表示したりといった可視化に優れています。特に私が注目しているのが、変数を自由に操作できる点です。高さを変える、初期速度を変える、加速度を変える等々、様々な物理量が変化すると、物体の運動はどのようになるのかを、視覚的に体験できます。
これらのことを踏まえるとModellusは、「アドバンシング物理」の理念に倣いつつ、教師がモデリングを事前に作成し、児童・生徒に示すことで、モデルへの操作を通して現実の運動法則を理解する教具として活用できるのではないでしょうか。
Modellusの導入
動作環境
ここからは実際にModellusの導入を説明します。ただし、ModellusはJava環境必須です。Modellusをインストールする前に、Javaが未導入の場合はインストールしておいてください。
まず動作環境ですが、これは明確な記載は見つかりません。ただ、Java環境は必須です。とりあえず私が動作させているPC環境を示しておきますと、Windows 11 64bit、CPU:Core i7、RAM:16 GB(surface pro 7)です。
これぐらいあると、かなりサクサク動きます。しかし複雑なことをさせようとすると、これでもきついです。それなりのスペックは要求されるようです。
色々なPCで動かした様子から察するには、下記ぐらいの環境が推奨かと。
- Windows 10 / 11 (64bit)
- CPU:Core i5以上
- RAM:8GB以上
- Java環境(必須)
- Modellus X Ver.0.4.05(64bit版)を使用
最新版は0.5.05なのですが、使ってみた感じ、モデルがスムーズに動いてくれません。私の予想ですが、最新バージョンは64bit非対応ゆえかと。
ですのでこの記事では最新版を使わず、0.4.05の64bit版を推奨します。32bit環境の方、申し訳ございません。
ダウンロード
Pedro Duque Vieira氏が、下記URLにてModellus Xを公開くださっています。
https://bitbucket.org/dukke/modellus-x-public-files/downloads/
Google等で「modellus X Downlord」などを検索すると、怪しげなダウンロードサイト(おそらくマルウェア拡散系のダミーサイト)が多く引っかかります。やめておきましょう。また前述のように、公式サイトは消滅しています。検索には引っかかりますが、こちらもクリックするとサーバーの広告的な頁に飛ばされますので、やめておきましょう。
上記URLより、「ModellusX_windows-x64_0_4_05.exe」をクリックし、ダウンロードします。
インストール
ダウンロードしてきたexeファイルを起動し、Modellusをインストールします。基本的には「Next >」を押し続けておけば、問題ありません。
Modellusを使ってみよう
さて、ついに実際に使ってみます。開けてみても何をすればいいのか、わけがわからないかと思いますので、まずは簡単なモデルを作って動かしてみましょう。
起動画面(メイン画面)
インストールしたModellus Xを起動したところです。残念ながらVer.0.4.05は日本語非対応です。
今回主に使うのは、リボンの「Model」および「Animation」と、ウインドウの「Mathematical Model(数学的モデル)」の3箇所です。「Graph」「Table」「Notes」は、ひとまず最小化させておきましょう。
数式をMathematical Modelに記述する
手始めとして、「等速直線運動」のモデルを作成してみましょう。
「Mathematical Model(数学的モデル)」のウインドウに、半角英数で以下のように記述します。
x=v*t
すると、ウインドウ内の表示は以下のようになります。
赤字になっている部分は、変数を表します。Modellusでは、他のプログラム言語のように変数を宣言する必要はありません。文字列は自動的に変数として認識されます。
この記述によって、「x」「v」が変数として設定されました。
ちなみに「t」は予めModellusで設定されている変数で、時間〔s〕です。
つまりこのモデルでは、距離「x」という量が、速度「v」というパラメータ(媒介変数)を比例定数ににして時間「t」と比例することが定義されています。等速直線運動になっていますね。
式を記述した状態で、リボン「モデル」の「Interpret(解釈)」をクリックしましょう。
式を入力したウインドウの右下に「Model:OK」が表示されれば、問題なくモデルができています。
モデルをオブジェクトに組み込む
このモデルで図形(オブジェクト)を動かし、等速直線運動を表示させてみましょう。
リボンの「Animation」タブをクリックし、「Particle(粒子)」をクリックします。
すると、カーソルに「+」が付きます。この状態で空白の背景の好きなところをクリックしてみてください。
背景にボールが追加されました。このボールに、先程作った等速直線運動の動きをさせてみましょう。
ボールをクリックすると、リボンに「Object」タブが現れます。そこの「Properties」から、「Coordinates(座標)」の値を変えます。
y:の値は0にしておきましょう。そしてx:のボックス右の下マークをクリックすると、変数一覧が表示されます。そこから、先程定義した「x」を選びます。
そして、「Mathematical Model」ウインドウの左下、「Parameters(媒介変数)」をクリックすると、「v」の値を入力する欄が表示されるはずです。ここの「Case1」に、「5」と入力してみましょう。つまり、速度を5に設定しておきます(Case2以後は今は無視します)。
これでアニメーションさせる準備が整いました。Modellus全体のウインドウ左下、プレイボタン(▶)をクリックしてみましょう。ボールが等速直線運動を行います。
Modellusの使い方、まとめ
以上がModellusで物理運動をシュミレートする一連の流れです。まとめますと、
- 「Mathematical Model(数式モデル)」に数式を入力し、量を定義する
- 「Animation」の「Partucles(粒子)」から、動かしたいオブジェクトを設置する
- 設置したオブジェクトの「Coordinates(座標)」に、定義した量を指定する
- 再生ボタンを押す
という過程になります。
さいごに
この記事では、Modellusの入手法およびインストール手順、そして基本的なModellusの使い方を紹介しました。
まだまだ触りの部分のみの紹介ですが、今後更に発展させた使い方をご紹介していく予定です。
また、当研究室HPの「Downlord」にて、私が作成したModellusファイルを公開しております。
興味を持たれた方は、ぜひ覗いてみてください。
参考文献
- 笠潤平(2015)「高校物理におけるモデリング教育の可能性-英国の『アドバンシング物理』とModellus」『日本科学教育学会年会論文集』39, p35-36.
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