理科教育のための「科学」①の続きです。
前回は、科学的探究における仮説設定に注目し、仮説が立てられる状況にあるのかを踏まえて発問をするコツを説明しました。
今回は、この「仮説」をもう少し掘り下げ、さらなる工夫を取り入れてみます。
具体的には、仮説には主に3つの種類があり、それに合わせて発問してみよう、という提案です。
私はこの3つを便宜的にそれぞれ、“What” “Why” “How”の仮説と読んでいます。
今、どの仮説をつくろうとしているのかを意識することで、発問の質はぐっと良くなります。
今回は、そのうちの2つ、”What”と”Why”の仮説を解説してみたいと思います。
Whatの仮説 ~「何が」を述べる~
3つの仮説をご紹介する上で、仮説がつくられる段階を解説させていただきます。
前回の説明にもありましたように、仮説は注目する現象に対して立てる仮の説なのですが、それがどのようにつくられていくか、風邪の例をつかって説明してみましょう。
ある日、あなたは風邪を引いてしまったとします。
喉が痛く、咳が出ます。
さて、風邪を引いてしまった理由はなにか、仮説を立ててみます。
例えば、ここしばらくエアコンの暖房をつけっぱなしにして寝ていたことが思い当たったとしましょう。
つまり、「エアコンが風邪と関係している」という仮説です。
このような何がしかの要因(エアコン)が現象(風邪)と関係しているといったような、現象に関係するものを挙げる仮説を、”What”の仮説と呼んでいます。
「なにが」、現象と関わっているか、という形式の仮説です。
Whyの仮説 ~「なぜ」を述べる~
そこから、もう少し仮説立てを進めることができます。
エアコンが原因だとして、それがなぜ風邪を引き起こしたのかを考えてみると、例えば「エアコンの温風によって、喉が乾燥して炎症を起こした」のではないかと考えることができます。
「エアコン」と「風邪」の間に説明付けを加えた仮説ですね。
このような、要因と現象をつなげる説明付けを伴った仮説を、”Why”の仮説と読んでいます。
「なぜ」、要因(エアコン)が現象(風邪)を引き起こしたのかを述べる仮説です。
理科教育の専門用語では、「説明仮説」と呼ぶこともあります。
以上のように仮説の形成は、「なにが」を仮説立てる”What”から、「なぜ」関係するかを仮説立てる”Why”へと進んでいきます。
What → Why を意識した発問をしてみる
では、これを理科授業の発問に応用させてみましょう。
意識しておくと役に立つのは、「いきなり”Why”は難しい場合が多い」ということです。
例として中学校物理分野、水圧の授業を考えてみます。
水圧を体感・観察する様々な実験をした後、水圧がなぜ発生するのかをディスカッションしながら整理・理解する授業を行うとします。
ここでいきなり子どもに「なぜ水圧が生じるのでしょうか」と発問しても、子どもから返事はなかなか返ってきません。
いきなり”Why”の仮説を立てることは難しいのです。
なので、まずは”What”で聞いてみましょう。つまり、例えば
「水圧の大きさは何と関係しますか?」
と聞いてみてはいかがでしょうか。
すると、今までの実験の経験を基に子どもたちは、
「深さ」
と答えてくれます。
それを踏まえて”Why”を聞きます。つまり、
「深いとなぜ水圧は大きくなるのでしょうか?」
といった発問になります。Whatの「深さ」と「水圧」がなぜ関係するのかを聞きます。
こうすると、解答しやすくないでしょうか。
「深いと上に水がたくさんあるから重さで大きくなる」
という説明仮説が、子どもたちから挙がってきそうな気がしますね。
このように、”What”を確認してから”Why”を発問で聞くことにより、
仮説設定がスムーズに進みます。
発問しても答えが返ってこないと悩まれている場合、”What”が認識されているか点検してみてください。
“What”つまり、注目する現象に関係する要因(変数)がはっきりと認識されていない場合、解答しにくい発問になってしまう場合が多いと感じます。
“What”を確認して、それを基に”Why”を尋ねる。
実験授業の考察をはじめ、子どもの思考場面でぜひ意識してみてください。
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