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はじめに
本記事では、理科教育のための「科学」と題しまして、今一度、科学とはどういった営みなのか、いかなる過程を辿るのかを考えながら、理科の授業づくりを検討してみたいと思います。
小学校であれば「問題解決の過程」、中学・高校では「探究の過程」を踏まえ、理科の授業を行う旨が、昨今盛んに叫ばれております。これは学習指導要領の改定が背景にありますが、そうでなくとも、理科の授業を考える上で、児童・生徒に科学の営みを体験させることは重要です。
今回は、科学の過程に沿った効果的な発問の投げかけ方を、検討してみましょう。
大学の模擬授業にて…
大学の学生さん向けに模擬授業をする授業を持っていたのですが、授業役の学生さんが悩まれるのが、やはり「発問」。
学生さんとしては、発問はしなければいけない!という意識を強く持っていらっしゃる。
だから、だれの模擬授業でも、ほぼ毎回、何かしらの発問をしてくれますね。
しかし、その発問に対して児童・生徒役の他の学生さんが「?」という反応をすることがよくあります。
何を答えればいいのか、よくわからない発問になっていることが、多々ありました。
発問は大事だけど、どのように投げかければいいのか悩まれている先生もいらっしゃるかと思います。特に実験や観察をさせる際は、問題解決の過程をたどるためにも発問の重要性は非常に増します。
そんなときは、科学的な探究・問題解決における「仮説」がきちんと立てられる状況なのか、チェックしてみてください。
科学における「仮説」とは?
仮説の意味
科学という営みを考える際に、「仮説」は極めて重要です。ただ、よく「予想」とごっちゃにされる場合があります。ほぼ同義になることもあるのですが、厳密には異なります。
辞書的な意味としての「仮説」を調べてみますと、
ある現象を合理的に説明するため、仮に立てる説。実験・観察などによる検証を通じて、事実と合致すれば定説となる。
デジタル大辞泉,小学館
とあります。ポイントは、
- ある現象を説明するためのもの
- 実験・観察によって検証される
という2点です。
科学の過程における仮説
なにがしか、不思議な現象があって、それを説明しうる説であり、のちに検証されるべきものが、科学における「仮説」です。
そしてこのように仮説を立て、実験によって仮説を検証して妥当性を確かめていく方法を「仮説演繹法」といいます。
基本的に科学とは、そうやって確かめられた仮説、すなわち定説を積み重ねていく営みです。
仮説づくりを意識した発問の投げかけ方
さて発問の話に戻りますと、児童・生徒がどのような仮説を立てたのかが、聞きどころとなりそうですね。
逆に言いますと、児童・生徒がそもそも仮説を立てられていなかったり、仮説を聞く発問になっていなかったりすると、うまく答えが帰ってこなかったりします。
うまくいかない発問例:そもそもの現象をまだ見ていない
模擬授業で例えば、このような発問がありました。
小学校の酸と金属の反応の単元なのですが、酸に金属を入れて反応を観察する実験授業を計画されました。その本番の導入、塩酸を入れた試験管に、管に入るサイズの銅板・アルミ板・鉄板が用意されて、
「塩酸にそれぞれの金属を入れると、どうなるでしょうか」
と、発問され、グループで議論するように指示されました。
さてこの発問、どう思われるでしょうか。
正直なところこの発問は、初めてこの実験に触れる子どもにとっては、あてずっぽうに答えるより仕方がないかと。知識として、塩酸にはアルミがよく溶け、鉄も溶けることを知っている児童なら、そう答えてくれるでしょう。しかしこれは、知識を聞いている状態です。
金属が酸に溶けるという現象は、もしかしたら漫画等で子どもは知っているかもしれませんが、ほとんどの子にとっては見たことがない現象かと思います。見たことのない、知らない現象に対しては、仮説を立てることができません。
改善案:まずは観察!そのあと発問
「実験前には予想や仮説を立てさせなければならない!」と思われている方もいらっしゃるかと思います。
しかし、その実験が検証ではなく、現象を初めて体験させる実験なのでしたら、まずはつべこべいわずに観察させましょう。
例の実験であれば、アルミは少量を用いれば、溶け切ります。そしてそれを「わー!」と見せたあとに、こう訪ねます。
「アルミは、どこへいったのでしょう?」
こうすると子どもたちは、いろんな「仮説」を立ててくれます。
気体になって飛んでいったのでは?細かくなって見えなくなったのでは?etc…
そうすれば、「では、それを確かめてみましょうか」と、次の実験が始まります。
酸に金属を溶かす実験の場合なら、反応前と後の塩酸をそれぞれ蒸発皿に入れ、蒸発させます。
すると反応後の塩酸からは、白い固体が残ります。
これを見て、「アルミは飛んでいったのではなく、目には見えなくなったけど中に残っていた」ことが確かめられるのです。
おわりに
まず、現象を見せてから発問を。
そしてその答えが次の実験で検証されるように単元を組み立てると、子どもの思考が問題解決の過程に沿って進んでいきます。
発問に悩まれている先生はぜひ、「仮説」が作れる状況に子どもはいるのか、すなわち、「仮説」を立てるだけの経験が、子どもたちの中にあるのか、今一度チェックしてみてください。
そして子どもの答えが検証できる授業構成にしてみると、まさに授業が科学の営みへと変化していきます。
本記事が、授業改善に役立つことを願っております。
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